歯周病治療に使われる抗菌薬「ジスロマック」とは?
歯科医院で処方されるお薬には、主に鎮痛剤(痛み止め)と抗生物質があります。ロキソニンなどの痛み止めは薬局でも購入できるため馴染みがありますが、抗菌薬は基本的に処方でしか手に入れることができないため、疑問点が多いという方も少なくないのではないでしょうか。
歯科医院での治療においては、歯周病の患者さんに対し「ジスロマック」という抗生物質を処方されることがあります。今回はジスロマックとはどんな薬なのか、歯周病への効果や副作用の有無について詳しく解説していきます。
ジスロマックとはどんな薬?効果は?
ジスロマックは、細菌の発育を阻害する抗生物質です。「ジスロマック」というのは、ファイザーという製薬会社から発売されている販売名であり、成分による一般名は「アジスロマイシン水和物」といいます。
ジスロマックには錠剤の他に、シロップ剤やカプセル剤、小児用の細粒剤などのタイプがあります。
ジスロマックの効果
ジスロマックは、細菌による感染症の歯周病に対して効果を発揮します。
歯周病には歯肉炎と歯周炎があります。歯肉炎は歯肉が赤く腫れる病気で、進行すると歯周炎となり、歯肉が腫れて、さらに歯を支える歯槽骨という骨が溶けてしまいます。どちらも、歯肉溝および歯周ポケットに潜む歯周病菌が起こします。
歯周溝と歯周ポケットの違いは?
歯と歯肉の間の深さが2mmまでである場合は「歯肉溝」、3mm以上になると「歯周ポケット」と呼ばれます。つまり、歯肉炎では歯肉溝、歯周炎では歯周ポケットといいます。
口腔内の細菌は、歯垢(プラーク)という白くネバネバした細菌の塊を形成し、さらに歯周病菌は歯肉溝・歯周ポケット内にバイオフィルムというヌルヌルした細菌の巣を作ります。
歯垢中の歯周病菌は、代謝産物として外毒素という毒物を放出して歯周組織を破壊し、歯周病菌の残骸から放出される内毒素も、歯肉に炎症を引き起こします。歯周病を食い止めるためには、これらの炎症や組織破壊を引き起こす歯周病菌を減らす必要があるのです。
ジスロマックは局所投与の薬です
歯周病の薬には、歯肉に直接ペースト状の薬液を注入する局所投与と、口から飲んで全身に効かせる全身投与がありますが、ジスロマックは後者になります。
ジスロマックを服用すると全身の血管に薬物がまわり、歯肉の毛細血管にも届きます。ジスロマックは歯周病菌の中の「リボソーム」というタンパク質を作る器官に作用し、タンパク質の生成を阻害して、細菌の増殖や成長を防ぎます。
ジスロマックは歯周病以外の治療にも用いられています
ジスロマックは、歯周病だけに特化した薬ではありません。
喉が痛くなるリンパ節炎・咽頭炎・扁桃炎、膿んだ鼻水が止まらない副鼻腔炎、咳や痰が多くなる気管支炎、インフルエンザなど、細菌性の炎症に対して幅広く使用されており、耳鼻咽喉科でも処方されることが多い薬です。
ジスロマックは歯周病の急性発作に効果的
人間の口腔内には常在菌として歯周病菌が存在していますが、正しい方法で歯磨きを毎日行い、適切なプラークコントロールがなされていれば、歯周病はほとんど起こりません。
しかし、プラークコントロールの不足によって、バイオフィルム中の細菌や細菌の塊である歯垢が溜まっていると、気づかないうちに歯周病になっていきます。慢性の歯周病は日頃から少しずつ進行し、無症状であることが多いのです。これこそが、歯周病が「サイレントディジーズ(静かなる病気)」と呼ばれる所以です。
抗菌薬を日常的に使用すると耐性菌ができてしまうため、軽度の歯周病では抗菌薬が処方されることは少なく、歯科医院での歯磨き指導や本人のプラークコントロールをメインにして、歯周病菌を減らす治療がすすめられます。
ただし、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行った直後や、感染性心内膜炎・人工弁を入れている方には、細菌が血液内に入り込んでしまう菌血症を予防する目的として、ジスロマックを処方されることがあります。
一方、プラークコントロールが不足している上に、さらに疲れや過剰なストレスによって免疫による抵抗力が落ちると、歯周病菌がより活発に活動します。このとき、歯には強い痛みや膿が出ることがあり、これを急性発作(歯周膿瘍)といいます。急性の歯周病では症状が強い分、炎症部位に対し、抗菌薬が非常に効果的に作用します。
ジスロマックの副作用と注意点
他の抗菌薬に比べると、ジスロマックは副作用やアレルギー症状が少ない薬とされていますが、より安全に服用するためにも、リスクと注意点を知っておきましょう。
ジスロマックの使用を避けるべき人は?
ジスロマックはマクロライド系の抗菌薬です。マクロライド系抗菌薬は、一般的に肝臓に対して副作用を与えることがあります。肝炎や肝硬変など、肝障害のある方は病状を悪化させる恐れがあるため、使用を避ける場合があります。
心疾患を持つ方も、不整脈を引き起こすことがあるため注意が必要です。
また、お腹が痛くなる、下痢をする、嘔吐するといった副作用も見られますので、小さな子供は特に注意が必要です。症状が治らなければ、歯科医院ではなく内科へ行きましょう。
さらに、過去にジスロマックの成分であるアジスロマイシンに対しアレルギー症状のあった方は使用を避けましょう。アジスロマイシンを成分とする薬には「トーワ」「CHM」「タカタ」などがあります。
妊娠中の使用も、お腹の赤ちゃんに影響を与えることがあるため、処方される前に先生に妊娠中であることを必ず伝えておきましょう。
ジスロマックの用法・用量は必ず守りましょう
ジスロマックに関わらず、抗菌薬の服用を途中で止めると、中途半端に作用したせいで薬剤耐性菌が発生したり、細菌が逆に増えてしまったりして、薬の効果がなくなってしまう可能性があります。
ジスロマックを服用する際には、医師から指示された用法・用量を必ず守ること、また、処方された薬は飲み切ることを心掛けましょう。
ジスロマックを飲み忘れてしまった場合は、二回分を一度に飲んではいけません。忘れた分はなるべく早く飲みましょう。ただし、その次の分を飲む時間が近づいている場合には、1回分をとばして次の時間に1回分を飲みましょう。
ちなみに、ジスロマックには飲み忘れがないように、シートに「1日目」「2日目」「3日目」と記載されているものもあります。
ジスロマックだけで歯周病を治すことは不可能?
歯ブラシやデンタルフロスによる物理的な清掃で、歯垢やバイオフィルムをしっかりと除去する習慣を身に付けなければ、歯周病はいずれ再発してしまいます。
急性の歯周病にしろ、慢性の歯周病にしろ、「ジスロマックの服用さえ行っていれば歯周病が治る」というわけではないのです。
基本的に、歯周病になった方はプラークコントロールが正しく行えていないということを意味しています。自分でオーラルケアの見直し。改善を行うことももちろん大事なことではありますが、やはり一番よいのは歯科医院に行って適切なプラークコントロールの方法を教えてもらうことです。
歯周病を悪化させない・再発させないためにも、「歯科医師に治療してもらった後はそれで終わり…」ではなく、歯周病予防の専門家である歯科衛生士による定期検診に通い、自分の口腔ケア方法が正しく行えているかチェックしてもらいましょう。
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