産後に口臭が強くなる3大原因とその対策
出産後にはトラブルがつきものです。妊娠・分娩によってホルモンバランスが崩れると、様々な異常や症状が出現します。出産を終えると、元の体に戻るためにホルモンも大きく変動するためです。
ホルモンバランスの変動は、体調やメンタル、髪の毛、お肌…さまざまなところに影響しますが、口臭もそのうちの一つです。産後に口臭がきつくなって、悩む女性も少なくありません。
産後の口臭の大きな原因は、唾液の減少・歯周病・便秘の3つが挙げられます。思い当たるものはありませんか?産後は赤ちゃんのお世話が始まって何かと大変な時期ですが、上手に対策をとって早めに改善したいですね。
1.唾液の減少
唾液が減ると、なぜ口が臭くなるのでしょうか。
口腔内が原因の口臭発生元は、歯垢(プラーク)、虫歯、歯周病、舌苔です。これらの原因が発生する理由には、全て細菌が関わっています。
唾液にはこの細菌に対する抵抗力があるため、十分に唾液が分泌されていれば、これらの口臭原因を防ぐことができます。
唾液減少で口臭が強くなる原因
歯周病リスクが高まる
唾液には、ヒスタチン、ディフェンシン、ペルオキシダーゼ、リゾチーム、ラクトフェリン、分泌型IgA抗体などが含まれています。これらは全て抗菌作用を持つ物質です。風邪などの細菌感染を防いだり、細菌の働きを抑制したりしてくれます。さらに、シスタチンという成分は、細菌やウイルスが歯周組織を破壊することを阻害します。
唾液には、抗菌作用や殺菌作用など歯周病を防ぐさまざまな働きがあるため、唾液が十分に分泌されていれば、歯周病予防効果を得られます。
しかし、産後は唾液の分泌が減少するために、歯周病のリスクが高くなるため注意が必要です。
また、女性ホルモンの一つ「エストロゲン」には歯周組織の炎症を防ぐ働きがありますが、妊娠中や産後はホルモンバランスが大きく変動するため、歯周病リスクが高くなります。
特に、妊娠中の歯周病を「妊娠性歯周炎」と呼びます。
妊娠中に発症した歯周病が、産後にさらに進行してしまうこともあるでしょう。歯周病は主な口臭原因の一つですし、歯を失う原因の一つです。進行を防ぐためにも、適切な治療が必要となります。
汚れが溜まりやすくなる
唾液には水分が多く含まれていますが、この水分は細菌を洗い流すだけでなく、口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物(VSC)を流し、除去する働きがあります。
乾いた舌の表面には舌苔(ぜったい)という汚れが発生し、細菌がこの舌苔を分解することによって揮発性硫黄化合物が産生されます。唾液が減ると、臭いガスである揮発性硫黄化合物が舌の上で生成されやすくなってしまいます。
また、舌苔と同様にプラーク(歯垢)でも口臭の原因となる揮発性硫黄化合物が生成されます。プラークは細菌が繁殖してできる、「細菌のかたまり」です。唾液が減少すると唾液の作用が得られなくなるため、細菌が繁殖しやすくなり、プラークが蓄積しやすくなってしまいます。
唾液が減少すると、プラークや舌苔などの汚れの蓄積を招き、その中に潜む細菌によって作り出されるガスで口臭がきつくなってしまいます。
口の中の汚れは口臭の原因となるだけでなく、虫歯や歯周病の原因となるため、妊娠中は特に口の中の衛生管理に注意が必要です。
虫歯になりやすくなる
唾液が減少すると、虫歯の進行・発生リスクが高くなります。細菌によって作り出される酸によって口の中が酸性に傾くと虫歯が発生・進行しやすくなりますが、唾液が十分に分泌されていれば、口の中が中和されて虫歯リスクが低減されるのです。
唾液が酸性に傾いた口の中を中和するこの働きを、緩衝作用と言います。
また、唾液中のカルシウム、リン、スタテリンといった成分は、歯に栄養を与え、虫歯で溶かされた(脱灰された)歯を元に修復する働きがあります。この唾液の働きを、再石灰化といいます。
口の中では、脱灰(歯が溶かされる)と再石灰化(修復)が繰り返されていますが、唾液が減少すると再石灰化が十分に行われなくなってしまうため、虫歯のリスクが高くなってしまいます。
唾液にはさまざまな虫歯を防ぐ効果がありますが、産後は唾液分泌が減少しやすくなるため、虫歯の発生・進行リスクが高くなり、口臭が強くなりやすいのです。
産後に唾液が減る原因は?
唾液分泌量が減少する理由には、主にストレス・加齢・薬の副作用・口呼吸・シェーグレン症候群などが挙げられます。産後に唾液が減少する理由は、ストレスに加えて女性ホルモンの変化が大きく関わっています。
妊娠初期は、排卵の抑制・妊娠の維持などの作用を持つプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が多くなります。また、子宮を大きくさせるエストロゲンも増加します。子宮の筋肉収縮を阻害するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンは、上がったり下がったりして落ち着きがありません。ホルモンバランスはめまぐるしい変化を起こし、その結果さまざまな体調不良を起こします。
出産後もホルモンバランスの変化がしばらく続きます。プロラクチンという母乳を分泌するホルモンが多く産生されたり、オキシトシンという子宮収縮ホルモンも増加したり、広がった子宮を回復させるためにホルモンバランスも変化するのです。
産後は、水分を保持する作用があり、唾液腺と密接な関わりがあるエストロゲンの分泌が減少するため、唾液の分泌量が減少しやすくなります。
このような産後のホルモンバランスの変化、それに伴う体調の変化によって、唾液の分泌量が減少しやすくなるのです。
授乳中は水分摂取量に注意
唾液は水分なので、水分摂取量が減れば、もちろん唾液量も減ります。体重にもよりますが、人間が1日に必要な水分量はおおよそ1.5Lとされています。忙しくても、喉が渇いていなくても、水分量が足りなければこまめに水分摂取を心がけることが大切でしょう。
2.歯周病
妊娠中・出産後は、ホルモンバランスが崩れることで歯周病にも影響を与えます。
最も多い症状は「妊娠性歯肉炎」です。歯肉が腫れ、重度になると歯の上に歯肉が乗りかかってきてしまうほどです。歯肉炎を放置すると、歯周炎に発展し、歯を支える歯槽骨が溶け始めます。
一度溶けてしまった歯槽骨はほぼ元には戻りません。また、歯周病菌は早期低体重児出産(早産)と関わりがあると言われているため、お腹の赤ちゃんのためにも妊娠中の歯周病予防が大切です。
歯周病になると口臭がひどくなる
歯周病は口臭の主な原因の一つです。歯と歯肉の境目の歯周ポケットに住み着く歯周病菌が、増殖の過程で臭いガスを発生させるため、口臭が強くなってしまうのです。
このガスは舌苔中の揮発性硫黄化合物と同じであり、主に硫化水素・メチルメルカプタン・ジメチルサルファイドの3種類の物質からなります。
舌苔による口臭は、硫化水素が特に多く含まれているため腐った温泉卵のようなニオイがします。歯周病による口臭は、メチルメルカプタンの割合が高く、腐った玉ネギのようなニオイがします。
歯周病がひどくなると、歯槽膿漏という状態になります。歯槽膿漏では炎症によって細菌・細胞の死骸の集まりである膿が排出されます。細菌が発するガスだけでなく、膿が原因で嫌なニオイや苦しょっぱい味も生じます。
妊娠中からの歯周病対策が大切
先にも紹介した通り、妊娠性歯肉炎の原因はホルモンバランスの崩れですが、口腔内のプラークコントロールが適切に行われていれば防ぐことも可能です。妊娠中からしっかりと歯磨きを行い、歯垢(プラーク)を除去して口の中の細菌を減らす習慣を身に付けておくことが大切でしょう。
しかし、妊娠中はつわりで歯磨きが思うように行えないケースも珍しくありません。つわりで口に物を入れると気持ち悪くなってしまう場合は、ヘッドの小さな歯ブラシを使うなどの工夫が必要でしょう。どうしても歯磨きができない場合には、うがいをしたり、水を口に含んだりすると良いでしょう。
つわりの時期は、就寝前や食後と歯磨きの時間を決めず、体調の良い時間に行うという方法もあるでしょう。
食生活の変化も影響しています
妊娠中は食べ物の好みが変化する人も多いです。普段は甘いものを多く摂らなかった人でも、急に甘いものばかりが食べたくなってしまう場合もあります。
食の好みや食生活の変化により、口の中が不衛生になりやすくなる人も少なくないのです。
口の中が不衛生になると、歯周病の原因となるだけでなく、虫歯の発生リスクを高めてしまうため、口の中の衛生管理にも注意が必要でしょう。
「歯周病かな」と思ったら…
妊娠中は体調が優れないこともありますし、大きなおなかででかけることも大変です。また、出産後は赤ちゃんのお世話で、自分のことどころではない人も多いでしょう。
しかし、歯周病は適切な治療を行わなければ進行してしまいます。気になる口臭も、歯周病が進行するほど強くなっていきます。
自分のことは後回しになりがちですが、気になる症状がある場合には、早めに歯科で相談することが大切です。
3.便秘
妊娠中や産後は、便秘に悩まされる人が多いですが、便秘も口臭に影響します。
産後は、プロゲステロンによる腸の働きの低下、出産による筋肉の疲労・筋力の低下、不規則な生活、ストレス、水分の不足などが原因で、便秘になってしまう人が多い時期なのです。
便秘による口臭
便秘になると、腸の中に便が長く停滞することになりますが、それにより腸内で悪玉菌が多く発生してしまいます。これにより、便として排出されるべき物質が、血液に乗って身体中を巡ってしまうとされています。血液に乗って運ばれたニオイの原因となる物質は、肺まで運ばれて呼気として排出されます。それにより、口臭が強くなってしまうのです。
産後の便秘対策
産後の便秘を防ぐためには、まず身の回りのことから改善しましょう。食物繊維の多い食事を摂る、ヨーグルトやキムチを食べて腸内細菌環境を整える、水分を多く摂取する、生活リズムを整えるなど、できることから少しずつ始めていきましょう。
妊娠中は思うように体を動かすことができませんから、筋力が低下してしまう人も多いですが、この筋力低下も産後の便秘にも大きく影響しています。
体調が回復したら、少しずつ体を動かすように心がけることが大切です。もちろん無理は禁物ですが、体を動かすことは、ストレスの解消やダイエットにもつながります。
授乳中の便秘薬の使用について
頑固な便秘は、つい薬に頼りたくなってしまう人も多いでしょう。しかし、授乳中は安易に便秘薬を使用してはいけません。薬の成分が母乳に影響する場合もあるのです。
薬用成分が母乳に移行して、赤ちゃんが下痢をしてしまうこともあります。市販の薬を自己判断で使用するのではなく、病院に行って適切な薬を処方してもらうことをおすすめします。
市販薬には、妊娠中や授乳中に服用できるものもありますので、薬局で相談するのも良いでしょう。
妊娠中や産後の歯科検診が大切
妊娠中や産後の歯科検診は、口臭を引き起こす虫歯・歯周病を発見&予防する上でとても大切です。体調が安定するようになったら、お母さんのためにも、赤ちゃんのためにも必ず行くようにしましょう。
また、「赤ちゃんがいるから歯医者に行けない」と思っている人も多いですが、託児ルームを備えた歯科医院も近年増えていますので、調べてみると良いでしょう。
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