蓄膿症と虫歯の関係/歯性上顎洞炎の治療・予防法は?
「蓄膿症は虫歯が原因となるケースもある」と聞いて、鼻の疾患である蓄膿症と口の中の病気である虫歯が一体どう結びつくのか、そのメカニズムについて疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
実は蓄膿症には、正確には虫歯ではなく「歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)」という病気が大きく関わっています。
今回は蓄膿症、虫歯、歯性上顎洞炎という3つのキーワードを中心に、それぞれの関係性や治療法、予防方法について詳しく解説していきます。
蓄膿症は虫歯が原因で起こる場合があるってホント?
蓄膿症と虫歯の関係性を理解するには、まず蓄膿症について知る必要があります。
蓄膿症は(慢性)副鼻腔炎とも呼ばれており、ウイルスや細菌、カビ、大気汚染などの原因により副鼻腔という顔面の骨の空洞に炎症が起こって、膿が溜まる病気です。
蓄膿症になると、頭痛や鼻水、鼻づまり、歯痛、味覚障害といった、日常生活に支障を与えるような様々な症状を引き起こし、保存的治療を継続しても軽快しない場合は手術が必要となるケースもあります。
副鼻腔には4つの空洞があり、それぞれ前頭洞(ぜんとうどう)、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、上顎洞(じょうがくどう)と呼ばれています。
これらは全てつながっているのですが、副鼻腔の中でも、特に上顎洞に炎症が起きた場合、上顎洞炎(じょうがくどうえん)と呼びます。
パノラマエックス線写真などを見てもらうとわかりやすいのですが、上顎洞は上の歯の根ととても近い場所にあります。
第二小臼歯・第一大臼歯・第二大臼歯の歯根は上顎洞に近接するように生えており、これらの歯が虫歯になると、歯の根から感染が広がり、歯が原因で起こる上顎洞炎、つまり歯性上顎洞炎を引き起こしてしまうことがあるのです。
歯性上顎洞炎とは/虫歯以外の原因は?
上顎洞炎のうち、鼻性あるいは血行性の上顎洞炎が8割程度であるのに対し、歯が原因となる歯性上顎洞炎になる確率は2割程度です。
歯性上顎洞炎は上の奥歯が虫歯になることで引き起こされる場合が多いのですが、発症する原因は虫歯だけに限りません。
重度の歯周病や根の尖端に嚢胞(膿)ができてしまう歯根嚢胞、奥歯の歯根が上顎洞を突き抜けてしまっており、抜歯した歯の根やインプラント体が上顎洞に迷入してしまうことによる細菌感染でも生じるケースもあります。
なお、歯性上顎洞炎と上顎洞炎の見分け方は、上顎洞の両方に炎症が生じているのか、片方に炎症が生じているのかで診断します。通常は両側性であれば上顎洞炎、片側性であれば歯性上顎洞炎と判断します。
歯性上顎洞炎の場合、まず原因となる歯を詳しく調べるために、レントゲン写真やCTで確認します。通常は透明(黒色)に写るはずの上顎洞が、膿が溜まっていると白っぽく見えるのがわかりやすいポイントです。原因となる歯は1本とは限らず、2~3本あるケースもあります。
歯性上顎洞炎の治療方法
歯性上顎洞炎では、急性の場合、まずはβラクタム系といった抗菌薬や抗炎症薬(痛み止め)を用いて細菌感染を防ぎます。
原因歯を保存できることもありますが、あまりに急性症状がひどく、治療を行っても改善されない場合は感染源として抜歯してしまうこともあります。
抜歯を行う際には、抜歯した穴から注射器などで膿を吸引し、上顎洞内を生理食塩水でキレイに洗浄して、穴にガーゼを当てて何度か交換します。このガーゼを取り換える際に痛みを感じる方が多いようです。
抜歯後の穴は時間の経過により血餅(けっぺい)と呼ばれる血液で満たされます。傷口は2~4日ほどで小さくなって、歯茎が7~10日前後で治癒していき、数ヶ月後には新しい骨の形成によって完全に治癒します。
なお、血餅ができる時点で「舌で傷口を触る」「激しくうがいをする」「喫煙・飲酒をする」「硬い食べ物を口にする」など、抜歯後の傷口に余計な刺激を与えてしまうと、本来なら血液で覆われるはずの傷口がむき出しになるドライソケットの状態になってしまう恐れがあります。抜歯後の傷の治りを遅くしてしまわないよう注意が必要ですね。
抜歯しても治らない場合は?
抜歯を行っても歯性上顎洞炎の症状に改善が見られない場合、内視鏡で上顎洞と鼻腔をつなぐ自然口を拡げて、膿を排出する手術が行われます。
また、上顎洞根治術(じょうがくどうこんちじゅつ)という方法もありますが、こちらは術後5~10年後に上顎洞内に袋状の膿が発生する術後性上顎嚢胞(じゅつごせいじょうがくのうほう)が現れる可能性があり、最近は行われることは少なくなっています。
症状の度合いによって治療法は異なりますが、何か治療に関して知りたいことや不安なことがあれば主治医に相談しましょう。
なお、歯性上顎洞炎の場合は歯科医師(特に口腔外科)、上顎洞炎の場合は耳鼻科医が専門領域となります。
蓄膿症(歯性上顎洞炎)によって生じる口腔内の症状とは
蓄膿症が虫歯によるもので歯性上顎洞炎に発展した場合、口腔内で起こる症状には以下のようなものがあります。
原因の歯を叩くと痛い
原因の歯の神経が虫歯で死んでいたとしても、歯を叩いたり噛み合わせたりすることで、根の周りにある神経が炎症による痛みをキャッチし、痛みが生じることがあります。
歯が浮いているように感じる
蓄膿症により、歯根に圧力が加わることで歯が押し出され、浮いたように感じる場合があります。
キツい口臭を感じる
ただの虫歯の場合にも、虫歯の穴に食べかすが溜まり、その腐敗臭が口臭につながることがありますが、歯性上顎洞炎では上顎洞に膿が溜まっているため、その膿や鼻水が喉の方に垂れてくることで口臭が強くなる恐れがあります。
神経がある健康な歯に痛みがある
原因歯の周囲の神経にも痛みが伝わり、関係のない健康な歯が痛くなるケースもあります。
レントゲン写真で原因歯をしっかりと鑑別し、原因となる歯以外の歯を抜いてしまうことのないよう注意することが大切です。
口の中以外で起こる症状は?
歯性上顎洞炎では、歯や歯茎の痛みといった口腔内の症状だけでなく、「頬が赤く腫れる」「頬や頭、目の周りに痛みを感じる」「鼻づまり」「膿が混じったような鼻水」などの様々な症状が引き起こされます。
歯性上顎洞炎を予防するには?
虫歯が原因となるといっても、歯根まで虫歯が進行しなければ歯性上顎洞炎には発展しません。
ある程度まで進行した虫歯は放っておくと悪化する一方です。虫歯があっても「痛みが治まったからいいや」と放置しておくと虫歯が感染源となり、運が悪ければ炎症が上顎洞まで波及してしまうのです。
歯性上顎洞炎を防ぐためには、上顎の歯の疾患を見逃さないことが何よりも重要です。
また、歯周病についても同様です。歯周病は痛みなどの自覚症状が乏しく静かに進行することから「サイレント・ディジーズ(静かなる病気)」と呼ばれ、気づいた時には歯槽骨が溶けているような状態にまで進行していることも少なくありません。
自分で判断することは難しいので、歯科医院でポケットの深さを測り、レントゲン写真で骨の状態を確認することが必要となってきます。
歯ブラシでの基礎的なケアを始め、歯間ブラシやデンタルフロスなどによる丁寧な歯垢除去のほか、小さな疾患を見逃さないよう、1年~数ヶ月に1度の歯科医院での定期検診を受けることで、奥歯や歯茎を病気から守りましょう。
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