フッ素塗布による虫歯予防効果/副作用は大丈夫?
ドラッグストアや薬局などで、フッ素が含まれる歯磨き粉やマウスウォッシュを見かけたことがある方は多いでしょう。フッ素は虫歯予防に優れた成分で、歯科医院では、定期検診の最後にフッ素塗布を行うこともあります。
しかし、フッ素の使用が奨励される一方で、「フッ素は実は危険な毒物だ」という反対意見もあります。どんなに優れたものでも、適切な使い方をしなければ身体にとって毒となってしまうことは間違いありません。
今回は、フッ素塗布による効果や方法、使用時の注意点について詳しく解説していきます。
そもそもフッ素とは?
フッ素とは、化学式「F」で表される元素のひとつで、生体内はもちろんのこと、食べ物・海水・空気・土の中など、実はどこにでもあるミネラルの一種です。
身体の中ではその9割が歯や骨などの硬組織に吸収されます。食べ物だと、岩塩や小魚、お茶の葉っぱなどに多く含まれており、原子の形では安定しないので、フッ化ナトリウムなどのフッ素化合物として存在しています。
フッ素の歴史
フッ素に虫歯予防の効果があるとわかったのは、今から100年以上昔のことです。歯科医師のフレデリック・マッケイ氏が、アメリカのある地域の子供たちだけ虫歯が少ないことに気づいたことが始まりでした。研究が進むうちにフッ素の正体が明らかになり、現在では世界中で虫歯予防のために利用されています。
香港やシンガポールでは、水道水にフッ素を添加し、フッ化物濃度を適正に調整する水道水フロリデーションという虫歯予防を実施しており、水道水フロリデーションの安全性や効果は高く認められており、WHO(世界保健機関)をはじめとする様々な国際・国家的専門機関が推進しています。
日本国内では、一言にフッ素塗布といっても、塗布・洗口(うがい)・錠剤・歯磨き粉といった様々な形で使われています。
フッ素が持つ効果・働き
「フッ素が虫歯予防に効果的である」と耳にすることは多いものですが、実際にどういった理由で歯に作用するのでしょうか。ここでは、フッ素の働きについて詳しく説明します。
1.歯の再石灰化を促す
歯磨きをせず、歯に歯垢(プラーク)が付着したままでいると、歯垢中の細菌が食べカスから糖分を栄養源にして活動し、代謝物として酸を排出します。ごく微量な酸ですが、蓄積すると歯の表面のエナメル質を次第に溶かしていきます。これを脱灰といいます。
このまま放っておくと、穴を開けて歯の神経まで蝕んでいき、最終的には歯が死んでしまうのですが、少し溶かされた程度の初期虫歯なら、カルシウム成分が唾液や食物から取り込まれ、しっかりとプラークコントロールを行うことで修復する可能性があります。この修復作用のことを再石灰化といい、フッ素にはこの再石灰化を促す効果があります。
2.酸の量を抑える
フッ素を塗布することで虫歯菌の働きが抑制され、虫歯菌が排出する酸の量が減少します。
3.歯質を強化する
フッ素は、再石灰化の際に唾液や食物からカルシウムやリン酸を取り込み、エナメル質の表面にあるハイドロキシアパタイトをより硬いフルオロアパタイト(フッ化アパタイト)に変化させ、歯を強くする働きがあります。フルオロアパタイトの形成によって酸に対し強い歯を作ることで、脱灰を防いで初期虫歯を予防することができるのです。
フッ素塗布による子供・成人への効果
フッ素塗布による虫歯予防の効果は、子供と大人で効き具合が異なります。その理由は歯の未熟さにあります。
子供の乳歯や生えたばかりの歯(幼若永久歯)は、エナメル質表面のハイドロキシアパタイトの結晶がまだ未成熟なので、虫歯への抵抗性が低い状態にあります。
その代わり、大人の永久歯よりもフッ素を積極的に取り込むため、子供の歯が生えたら、なるべく早い段階でフッ素塗布を行い、虫歯になる前に歯質を強化しておくことが大切です。
なお、成人の場合においても、入れ歯の使用や歯周病による骨吸収で露出した歯にフッ素塗布を行うことで、虫歯を予防する効果が期待できます。
フッ素塗布の方法
フッ素塗布は、歯科医院で行うか自宅で行うかによって、フッ素の濃さや使う器具が異なります。どんな方法があるのか、詳しくチェックしていきましょう。
歯科医院の場合
通常、フッ素塗布は定期検診の最後に行います。歯科治療中やクリーニング中はよくうがいをしたくなりますが、フッ素が水で流されてしまうと意味がなくなるため、うがいをしなくてもよいタイミングで行うのがベストなのです。
手順としては、まずスケーリングやブラシで研磨を行い、歯を一番綺麗な状態にします。その後はどんな器具を用いるかで、やや方法が異なります。
歯面塗布法
歯面塗布法はフッ素塗布の中でも最もオーソドックスな方法で、他の方法と比べ短時間で済みます。
まず、歯に空気を当て乾燥させ、唾液が歯に触れてフッ素が洗い流されてしまわないよう、綿を歯と唇や舌の間に入れます。気になったとしても歯を舌で舐めないようにする必要があります。
次に、綿球に塗布用のフッ素を盛って、歯に塗っていきます。子供であれば、歯磨き粉のように歯ブラシに付けて磨くように塗布することもあります。
なお、塗布後の30分間は飲食禁止です。フッ素の味やニオイが苦手な方にとってはなかなか辛い時間となります。
トレー法
トレー法は一部の歯科医院で行われている方法です。
歯並びに合ったマウスピース様のトレーの中にフッ化物溶液を溜め、口の中に一定時間装着したままにします。唾液は極力吸い出し、フッ素を飲み込まないようにします。
終了したら余分なフッ素を拭き取り、歯面塗布法と同様に30分間は口に何も入れないようにします。
イオン導入法
綿球やトレーに微弱な電流を流しながら行うのがイオン導入法です。フッ化物を電気によって分解し、歯により浸透しやすい形にするのが狙いです。こちらの方法も、施行している歯科医院は限られています。
自宅の場合
フッ素塗布は歯科医院だけではなく、自宅で行うことも可能です。
ただし、自宅で行うフッ素塗布の場合、用いるフッ素の濃度が低めであるため、歯科医院で行うフッ素塗布より頻繁に行わなければ適切な効果が得られません。
フッ化物配合歯磨き粉
最も手軽なフッ素塗布の方法としては、毎食後、フッ素が配合されている歯磨き粉でブラッシングすることです。歯磨きは毎日行うものですが、それに加えて虫歯予防もできたら一石二鳥ですね。
なお、フッ素をできるだけ口の中に停留させるため、歯ブラシ後のうがいは1~2回程度にすると効果がアップします。
フッ化物配合歯磨き粉の年齢別の使用量は?
- 歯の萌出~2歳・・・切った爪程度(保護者が仕上げ磨き時に行う)
- 3~5歳・・・5mm以下
- 6~14歳・・・1cm程度
- 15歳以上・・・2cm程度
フッ素コート剤
歯磨きの後に、フッ素コート剤を歯に擦りつけるように磨くことで、歯にフッ素を浸透させます。就寝中は口が乾燥しやすく特に虫歯の発生しやすい時間帯ですので、寝る前に行うとより効果的です。
フッ化物洗口
顆粒状のフッ化ナトリウムを溶液に溶かし、低濃度のフッ化物水溶液でぶくぶくうがいを行う方法です。フッ化物イオン濃度が225ppmの場合は週に5日、900ppmの場合は週に1日の頻度で洗口を行います。
なお、フッ化物の総摂取量が多くなってしまうと、歯のエナメル質の一部が変色や欠損を起こす歯のフッ素症、斑状歯(はんじょうし)が起こる可能性が高くなります。子供の場合、学校によって集団でのフッ素洗口が実施されている場合もあるので、重複には注意が必要です。
フッ素塗布を行う際の注意点
フッ素を使用する上で最も注意すべきことは、急性のフッ化物中毒です。
一度に多量のフッ化物を摂取すると、中毒症状で嘔吐や腹痛、下痢などの体調不良を引き起こします。命に関わる場合もあるので、くれぐれもフッ素の使用量には気をつけましょう。
また、歯科医院でフッ素塗布を行う場合は、年に2回以上行うのが基本です。面倒だからといって期間を空けてしまうと、歯の表面のフルオロアパタイトは次第に失われ、予防効果もなくなってしまいます。定期検診を兼ねて、継続的にフッ素塗布を行うことが大切です。
ただし、フッ素塗布をしたからといって虫歯にならないわけではありません。歯ブラシやデンタルフロスでしっかりと口腔清掃を行い、プラークコントロールを徹底した上でフッ素塗布を活用しましょう。
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